工場で働く人にとって、夏場の暑さは大きな問題です。
近年は地球温暖化の影響もあり、工場内の気温が外気温よりも高くなるケースも少なくありません。特に鉄骨構造や折板屋根の工場は、日射によって屋根が高温になり、内部の空気をどんどん暖めてしまいます。その結果、現場で働く作業者は強い暑さにさらされ、体調不良や熱中症のリスクが高まります。
もちろん、理想を言えば「全館空調」を導入することです。工場全体を冷房で快適な温度に保つことができれば、作業効率の向上や従業員満足度の向上に大きく貢献します。しかし、現実には大きな壁があります。それは莫大な設備投資費用です。数千平方メートルにも及ぶ工場に業務用空調を導入するとなれば、初期費用だけで数千万円規模になる場合も珍しくありません。さらにランニングコストも膨大です。
そのため、多くの工場では「できるだけ低コストで効果的な暑さ対策」を模索しています。今回ご紹介するのは、まさにコスパを重視した暑さ対策です。ポイントは「熱をこもらせない」「空気の流れを作る」の2点にあります。
工場の暑さは「空気のたまり方」が原因
まず理解しておくべきなのは、工場の暑さのメカニズムです。
熱い空気は自然に上昇し、建物の高い位置にたまります。体育館や倉庫に入ったとき、天井付近に熱気がこもっているのを感じた経験がある人も多いでしょう。工場も同じで、天井近くには高温の空気が滞留し、それが下に降りてきて作業環境を悪化させます。
つまり、効果的な暑さ対策を行うには、まず高い位置にたまった熱気を外に逃がすことが重要です。そのために有効なのが「換気扇の設置」です。
高い位置に換気扇を設置する
工場の壁や屋根の高い位置に換気扇を取り付け、内部の熱気を強制的に排出します。
これにより、熱がこもるのを防ぎ、空気の流れを作ることができます。特に、屋根付近や壁面の上部に大型換気扇を設置すると効果的です。換気扇の設置位置を低いところにしてしまうと、せっかくの排気効果が十分に得られません。必ず「熱のたまりやすい上部」を狙いましょう。
換気扇とセットで行う「外周ルーバーの設置」
ただし、排気ばかりを行っても、空気の流れは生まれません。換気扇で熱気を外に出すのと同時に、新鮮な外気を工場内に取り込む必要があります。ここで役立つのが「外周ルーバー」です。
工場の扉を開けたときに、スーッと風が流れ込んできて涼しく感じることがあります。これは外気が内部に入ることで空気の対流が生まれている状態です。この仕組みを常時取り入れるのが、外壁へのルーバー設置です。
特におすすめなのが、作業者の腰の高さから上方向20~30センチの位置にルーバーを取り付けること。これにより、作業している人が外気を直接感じやすくなり、体感温度の改善につながります。また、可能であれば工場の外周全体にルーバーを設置するのが理想です。そうすることで外気の取り込みが安定し、工場全体で効率よく空気が流れるようになります。
スポットクーラーの意外な落とし穴
工場の暑さ対策としてよく導入されるのが「スポットクーラー」です。
移動式の機器を必要な場所に置いて、冷風を直接作業者に当てることができるため、導入しやすいというメリットがあります。実際にスポットクーラーを使ったことがある方は、吹き出し口からの冷風を浴びると「涼しい!」と感じるでしょう。
しかし、このスポットクーラーには大きな欠点があります。
それは 冷風と同時に熱風も発生している ということです。スポットクーラーは、内部で空気を冷却する際に熱を発生させ、その熱を工場内に排出しています。つまり、作業者が冷風で涼しさを感じている一方で、別の場所では余計に温度を上げてしまっているのです。これでは工場全体の温度改善にはつながりません。
また、スポットクーラーは電力消費量も大きく、複数台を稼働させると電気代が跳ね上がります。
一方で「換気扇+外周ルーバー」は、初期工事費用はかかるものの、ランニングコストは圧倒的に安く抑えられる のが特徴です。換気扇の消費電力はスポットクーラーに比べるとごくわずかで済みます。中長期的に見れば、スポットクーラーよりもはるかに経済的です。
スポットクーラーの電気代ってどれくらい?
1. 前提条件を設定
- スポットクーラーの消費電力:1.0kW(1000W) 程度が一般的
※機種によって0.8~1.2kW程度 - 使用時間:8時間/日
- 期間:30日/月
- 電気料金単価:31円/kWh
2. 1日の消費電力量
1.0kW×8時間=8.0kWh1.0 \text{kW} × 8 \text{時間} = 8.0 \text{kWh}1.0kW×8時間=8.0kWh
3. 1日の電気代
8.0kWh×31円=248円8.0 \text{kWh} × 31 \text{円} = 248 \text{円}8.0kWh×31円=248円
4. 1か月(30日)の電気代
248円×30日=7,440円248 \text{円} × 30日 = 7,440 \text{円}248円×30日=7,440円
✅ 結論
スポットクーラー1台を1日8時間運転すると、1か月で約7,000~8,000円程度の電気代がかかります。
(機種や設定温度、実際の消費電力によって前後します)
コスパで考えると「換気+ルーバー」が有利
暑さ対策は「導入しやすさ」で考えるとスポットクーラーが優勢に見えますが、「ランニングコスト」と「作業環境全体の改善効果」で考えると、換気扇とルーバーの組み合わせが圧倒的に有利です。
特に以下のような効果が期待できます。
- 工場全体の温度を下げる効果がある
- 空気の循環により、ムラの少ない作業環境を作れる
- 消費電力が少なく、電気代を大幅に削減できる
- 機器の移動や設置場所調整が不要
つまり「全員が快適に働ける環境を低コストで作る」ことを目的にするなら、換気+ルーバーは非常にバランスの良い方法なのです。
冬場の注意点:ルーバーは逆効果になることも
ここまで読むと「換気扇+外周ルーバーが最強の解決策なのでは?」と思うかもしれません。
しかし、この方法には冬場のデメリットがあります。外周ルーバーから常時外気を取り込む仕組みは、夏場には涼しく感じられますが、冬場には冷たい外気が工場内に流れ込んできてしまうのです。これでは作業者の寒さが増し、暖房効果も損なわれます。
冬場の対策方法
このデメリットを防ぐためには、いくつかの工夫が必要です。
- 開閉式のルーバーを設置する
季節によってルーバーを開閉できるようにしておけば、夏は涼しく、冬は寒さを防ぐことが可能です。 - シートや防風板を併用する
工場の出入口やルーバー付近にビニールシートや防風板を設置し、外気の侵入を和らげる方法です。完全に密閉しなくても、冷たい風が直接流れ込むのを防ぐだけで効果があります。 - 部分的な開口にする
外周全体にルーバーを設けるのではなく、冬場は一部を閉じて必要な分だけ換気するという運用方法も有効です。
このように、夏と冬で運用を切り替えることができれば、一年を通して快適な工場環境を維持することができます。
暑さ対策は「従業員の安全と健康」が第一
工場の暑さ対策を考える上で、最も優先すべきなのは従業員の安全と健康です。
特に夏場は熱中症のリスクが高まり、作業効率の低下や事故の発生につながる可能性もあります。万が一、従業員が体調を崩してしまえば、生産計画全体に影響を及ぼし、会社にとっても大きな損失となります。
また、近年は労働環境の改善に対する社会的な要求も高まっており、「働きやすい環境を整えること」は採用や定着率にも関わります。
暑さ対策は単なる「作業環境の改善」にとどまらず、人材確保や企業価値の向上にも直結する投資だと言えるでしょう。
離職対策としても有効
作業環境の悪さは作業者の離職理由の常連上位です。エアコン完備 vs 熱中症者が出る環境、どちらで働きたいかの答えは聞くまでもありません。
「うちの会社は暑さ対策を頑張ってくれる」と作業者が感じてくれればうれしいですよね。
生産性の維持にも直結する
暑さが厳しい工場では、作業効率が低下しやすくなります。
人間は体温が上がると集中力が落ち、判断力や注意力が鈍ります。その結果、製品不良や作業ミスが増えたり、作業スピードが落ちたりすることがよくあります。
しかし、適切な換気や外気導入で体感温度を下げることができれば、作業者の集中力を保つことができ、生産性の維持や品質の安定につながります。これは企業経営にとって非常に大きなメリットです。
コスト削減の観点からも有効
全館空調は理想的ですが、多くの工場にとって現実的ではありません。
その点で「換気扇+外周ルーバー」は、初期投資も比較的抑えられ、ランニングコストも低く済みます。消費電力が少ないため、電気代を大きく節約でき、長期的に見れば非常に高いコストパフォーマンスを発揮します。
さらにスポットクーラーに依存しなくても済むため、「台数が増えて電気代が跳ね上がる」という問題も回避できます。
実際に導入する際のポイント
換気扇+外周ルーバーを導入する際には、以下のポイントを押さえておくと効果を最大化できます。
- 換気扇は必ず高い位置に設置する
熱気は上にたまるため、低い位置の換気扇では効果が薄くなります。 - ルーバーは作業者の腰の高さ付近に設置する
人が外気を直接感じられる高さに設置すると体感温度を下げやすくなります。 - 外周にできるだけ均等に配置する
片側だけに設置すると空気の流れが偏ってしまうため、工場全体で風の通り道を作ることが大切です。 - 夏と冬で運用を切り替える
開閉式ルーバーやシート、防風板を併用し、冬場は冷気の流入を防ぐ工夫が必要です。
失敗しやすい点と注意事項
導入時によくある失敗例も押さえておきましょう。
- 換気扇の数が不足している
工場の広さに対して換気扇の容量や台数が足りないと、十分な空気循環が生まれません。 - 排気と給気のバランスが悪い
排気ばかり強化しても、新鮮な空気が入ってこなければ効果は半減します。必ず「排気と給気のセット」で考えましょう。 - 冬場の寒さ対策を考えていない
夏は快適でも、冬に寒さで作業効率が下がってしまっては本末転倒です。季節ごとの運用を前提に設計することが大切です。
まとめ:コスパ重視の暑さ対策で快適な工場環境を
工場の暑さ対策として「全館空調」が理想であることは間違いありません。しかし、莫大な設備投資とランニングコストを考えると、現実的に導入できる工場は限られています。
その点で「換気扇+外周ルーバー」は、低コストで効果的に工場全体の環境を改善できる現実的な方法です。
- 高い位置にたまる熱気を排出し、
- 腰の高さから外気を取り入れることで、
- 工場全体に空気の流れを作り出す。
これにより、従業員の安全と健康を守り、生産性を維持しながら、コストも抑えることができます。
さらに冬場には開閉式ルーバーや防風板を活用することで、一年を通して快適な作業環境を実現することが可能です。
工場の暑さ対策を検討している方は、まず「換気+ルーバー」の導入を検討してみてはいかがでしょうか。
最後までみていただいてありがとうございます
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